【宮小路瑞穂の憂鬱】

お昼休みのひととき(その1)

「そういえば、いつだったかしらね、奏ちゃんが
『高速道路を馬が走った』っていうニュースを
見たことがあるって……あ! 思い出したわ、
まりやの持ってきた人生ゲームをしているとき、
私たちに教えてくれたじゃない?」
 お昼休みの食堂。僕はハンバーグをパクつきながら、
奏ちゃん、由佳里ちゃんの二人とおしゃべりしていた。

「はいなのですよ〜。ええっと……でもですね、
ニュースの詳しい内容は覚えてないのです」
 申し訳なさそうにしゅんとうつむく奏ちゃん。

「あら、いいのよ。本当に、ただ何となく
思い出しただけだから。事実の概要を
知りたいとか、そういうわけじゃないの」
 僕がそう言うと、奏ちゃんはやわらかく
微笑して応えてくれた。

「馬が高速道路を走るって……
えっと、そんなに足早かったですっけ?」
 ハンバーグの刺さったフォークをくるくる
小さくまわしながら由佳里ちゃんが問う。
ちょっとお行儀が悪いけど、ふいに見せる
子どもっぽさ(と言ったら傷つくだろうけど)は
由佳里ちゃんをとってもキュートに見せる。
――要するに"微笑ましい"という印象だ。

「え? ああ、そうねえ。高速道路では、ちゃんと
法廷速度を守って走ったとしても、車は時速八十キロ
くらい出しているわけでしょう? 馬だってさすがに
そんなには速く走れないと思うけど……でも、たとえ
速く走れたとしても、馬が道路を走ったら大変よね」
馬の時速
一般に、馬は最高で時速七十キロメートルで走ることができると言われている。しかし、この数値は全力疾走時のものなので、長距離を走るのであれば速度はもっと落ちる。ただそれでも、二千メートルの走破タイムがしばしば二分を切ること、追い切りで二百メートル十二秒は普通に出すことから、少なくとも時速六十キロメートルで二千メートルを走り切る能力は有しているといえよう。
「そういえば、馬で道路を走ってはいけないんですか?
その、法律的にっていうか……」
 由佳里ちゃんがちょっと恥ずかしそうに尋ねる。

「法律的に……どうなのかしら? 私にもちょっと
わからないわ、ごめんなさいね」
「あ、いえいえ! 変なことを聞いちゃって、
その、私の方こそすみませんでした」
 フォークをお皿に置き、由佳里ちゃんは
両手を胸の前で振って、恐縮しきりだ。

「でも、田舎で牛さんとかが荷を引いてるのを
見たことあるのです。あれはどうなのでしょう?」
 奏ちゃんが可愛らしく小首をかしげて言った。
「言われてみれば確かに、そういうシーンはあるわね。
農道に入るのに一般道を走れないのでは不便でしょうし。
もしかしたら、軽車両とかに分類されるのかしら」

道交法上の区分
道路交通法上、馬が引く車および人の騎乗した馬は軽車両に分類される。
「きっとそうなのですよ〜」
「馬を車扱いって、なんだか変な感じですけど、
でもやっぱり、今は車社会だからそういうふうに
なっちゃいますよね」
 二人がにこやかに納得する。僕としては答えに
確信がないからほんの少し気まずいような……。

「そういえば、瑞穂お姉さまは馬術とかも
たしなまれるんですか?」
 期待のまじったような熱い眼差しで由佳里ちゃんが
新たに問いかける。と同時にハンバーグをむぐむぐ。
「ええ、それなりにはね。上手かどうかは
ちょっと微妙だけど」
「わあ〜! とっても素敵なのですよ〜!」
「本当! 白馬がと〜っても似合いそう!」
 目をきらきらさせながら華やぐ二人。白馬?
「ええっと……二人とも?」
「ねえ奏ちゃん、王子様の衣装でね、ね!」
「もちろんなのですよ〜! すごいです!」

 これは、男の僕にはよくわからないけれど、
何とも言えず乙女チックなフィールドが……!?
僕は「アハハ…」と苦笑するしかなかった(苦笑)

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